大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和61年(ワ)15695号 判決 1988年5月25日

原告

和賀勝

右原告訴訟代理人弁護士

田中俊充

久江孝二

被告

大正海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

石川武

被告

富田靖宏

右被告両名訴訟代理人弁護士

宮原守男

倉科直文

右宮原守男訴訟復代理人弁護士

小松初男

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告富田靖宏は原告に対し、サンケイ新聞東京版社会面に二段抜き五センチメートル幅の別紙記載内容の謝罪広告又は読賣新聞夕刊に二段抜き五センチ幅の別紙記載のとおりの謝罪広告をせよ。

2  被告富田靖宏及び被告大正海上火災株式会社は、各自二〇〇万円及びこれに対する昭和六一年九月五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宜言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、昭和五九年一二月二八日、訴外八須達夫(以下「訴外八須」という。)の過失による交通事故(以下「本件事故」という。)により頸椎挫傷兼頸髄損傷を受け、その損害賠償請求を久江孝二弁護士(以下「久江弁護士」という。)に依頼した。訴外八須は、被告大正海上火災保険株式会社千葉県東葛自動車損害センター(以下「被告会社」という。)に久江弁護士との損害賠償についての交渉を依頼したところ、被告会社の右交渉担当者にはまず前任者の訴外大町英彦(以下「訴外大町」という。)が、次いで後任の被告富田靖宏(以下「被告富田」という。)が、順次その交渉にあたった。

2  原告は前記受傷により、昭和五九年一二月二八日から同六〇年九月三〇日まで二七七日間、品川区大井五丁目五番二〇号所在の宜保外科医院に通院し(実通院日数一三一日)宜保成一医師(以下「宜保医師」という。)の治療を受けた。同医師の診断によれば、同年九月三〇日現在でもなお、継続通院の必要があるとされたが、原告はその後一回通院したものの緩解しないので、通院をとりやめた。

3  訴外大町は、被告会社の担当者として前記損害賠償の示談について交渉の過程において、まず昭和六〇年一月一〇日、宜保医師に電話し、同医師の診断内容にクレームをつけるが如く、原告の負傷はそんなに非道いはずはないと、文句を述べたところ、宜保医師は憤然として原告の傷がそんなに簡易に治るわけがない旨応答した。

4  原告は宜保医師から右訴外大町の言を聞き、原告が実際の負傷以上に誇張して申告したかのように訴外大町に受けとられており、何か侮辱されたように感じたので、そのような被告会社の担当者と直接前記損害賠償についての示談交渉を続けることは耐え難く、その後久江弁護士に右交渉を依頼した。

久江弁護士は、昭和六一年七月三一日、「請求書」と題する書面を被告会社(千葉東葛自動車損害賠償調査センター)宛ての内容証明郵便で発送し、原告の受けた損害額を明示して、原告の訴外八須に対する損害賠償請求をなした。右久江弁護士の請求を受けてか、その頃訴外大町に代わって損害賠償の交渉にあたるようになった被告富田靖宏は、昭和六一年九月二日付け、同月四日到達の久江弁護士宛ての書簡中で事故は極めて軽微なものであり、治療に多くの日数を要することはない旨述べたうえ、「本件治療がこれほどに延引したことは、純粋な事故起因の他に本人資質等も加味されているのではないかと思われます。」と記述し(以下、上記括弧内の記述を「本件記述」という。)、あたかも原告が保険金ほしさに仮病をつかうか、症状を大げさに申告するような性格の持主であるかのように受け取られる意味のことを久江弁護士に告げた。

5  原告は本件記述にかかる事実を知るに至り、訴外大町と同様被告富田も原告のことを誤解していると感ずるとともに、自分との間に互に信頼関係にあった久江弁護士が本件記述により原告のことを保険金欲しさに嘘を演ずるような人間であると感じたのではないかと思い、何の根拠もなしに原告の誇りを踏みにじった被告富田に著しい憤りを感じるとともに表現し難い悔しさと恥しさを覚え、とりわけ久江弁護士に対してどう釈明したものかと何日も思い悩み、結局、原告と同弁護士との間の真の信頼関係にもひびが入り、互いに疑心暗鬼になった。

6  被告富田は、被告会社の社員として保険実務に精通し被告会社のマニュアル等により交通事故損害につき日頃相当の知識を有していると思われるのに本件記述においては、文献等に散見される「気質」、「性格」、「体質」、「心理的要因」、「主観的要因」といった言葉を使用せず、あえて、人格的要素を含んだ「資質」という言葉を使用したことは、被告の前任者の訴外大町と宜保医師との電話での口論を合わせ考えると、暗に原告が仮病を使っていることを指摘したかったとしか考えられない。一般に社会生活においては通常人は相手の気持を損わないよう充分配慮するものであるが、保険会社のなす被害者との示談交渉においては、被害者の被害意識が根強いことが通例であるから通常よりはるかに相手方の心を傷つけないように、特に人格に係わる事柄はその表現につき慎重に配慮すべきである。ところが被告富田は、衝撃的力学や医者の専門家の意見も聞かず、あいまいな資料に基づいて、相当な根拠もないのに独断と偏見をもって被害者たる原告の「資質」を持ち出して表記したものであって、尊大な態度であたかも専門家の如き言動をしているのであって、同被告の所為は原告を侮辱し、その人格権を侵害するものであり、社会生活上許容されない違法なものというべきである。かかる被告会社の社員被告富田の尊大な振舞いを被告会社自身も教育奨励しているのであり、右被告富田の所存につき使用者としての責任を問われるべきである。

7  原告は、被告富田の本件記述により原告の名誉を毀損され、著しい精神的苦痛を受けた。右原告の精神的苦痛は二〇〇万円をもって慰藉されるべきであり、名誉回復のためには被告富田が別紙「謝罪広告」記載のとおりの謝罪広告をなすことによってはかられるべきである。被告会社は被告富田の使用者であり、同被告の原告に対する名誉毀損行為は同被告がその職務執行中になしたものである。

8  よって、原告は被告富田に対しては、請求の趣旨1項記載の謝罪広告をなすことを求めるとともに、被告両名に対し各自二〇〇万円の慰藉料及びこれに対する不法行為の翌日である昭和六一年九月五日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

(認否)

1 請求原因1項のうち、原告の負傷が頸椎挫傷兼頸髄損傷であることを除きその余は認める。原告の受傷は頸椎捻挫であるにとどまる。

2 同2項のうち、原告が宜保外科医院に通院し、宜保医師の診療を受けたことは認めるが、その余は争う。

原告は昭和五九年一二月二八日に訴外医療法人社団全仁会上野病院に通院しており、宜保外科に通院したのは翌六〇年一月七日(転院)以降同年九月三〇日までの間(実日数一二九日及びその後一〇月に一日の計一三〇日である。)であり、原告主張の日から宜保外科に通院を開始したものではない。

3 同3項は否認する。訴外大町は原告主張の日時にその主張内容のようなセリフの電話をしたことはない。

4 同4項のうち、原告が久江弁護士に損害賠償請求についての交渉を依頼したこと、同弁護士が原告主張の日付け、内容、到達の内容証明郵便を出し、これに対し被告富田が原告主張の日付け、内容による書簡を久江弁護士宛てに出し、同書簡中には本件記述があることは認め、その余は争う。なお示談交渉担当者が訴外大町から被告富田に交替したのは昭和六一年四月の定期移動による配置換えによるものであって久江弁護士の出現によるものではない。

5 同5項の事実は知らない。

6 同6項の事実は否認ないし争う(この点についての被告主張は後記(主張)の項に記載のとおりである。)。

7 同7項及び同8項は争う。

(主張)

本件における被告富田の所為は何ら原告の名誉毀損するような不法行為にあたるものではない。

1 本件記述は、交通事故の加害者から被害者との示談交渉の委任を受けた者がその交渉の過程において、法律専門家である右事故被害者から委任されて損害賠償を請求してきた弁護士に宛先を限定して提出した手紙(非公開の文書)中の記述部分であって、第三者や不特定多数の者に広く内容を開示、通報されることを予定された文書ではないから、謝罪広告によって原状回復をはからなければならないような文書ではない。

2 本件記述のある手紙は原告から本件交通事故による損害賠償の示談について依頼を受けた久江弁護士から詳細な損害金額内訳けの記載のもとに合計四二九万三四四八円の損害賠償を求める旨記載した内容証明郵便による書面であって、原告には加害者訴外八須に対する損害賠償請求権があることを主張してきたことに対して訴外八須から委任され同訴外人の代理人として右書面による原告の主張に対する回答として、八須の主張、応答を記載して久江弁護士宛てに作成、送付したものである。そして、本件記載は、右書簡中では、本件事故が軽微なものであること、原告が受診した上野病院では加療約二週間と診断されたこと、原告が肉体労働者でないこと、後遺障害の立証がないこと等の客観的事実を指摘した記述をしたのちに原告の請求額の減額を求める趣旨で記述されたものであり、内容、表現ともに穏当を欠くものではない。

3 自動車による交通事故受傷の場合に当該事故の態様、障害の態様に比して不相当に被害者の治療期間が長期化したケースにおいて、その長期化した症状の発現については、当該事故とは無関係な被害者自身の体質、気質、性格、既往症などの所謂「素因」或は心因的要因などが寄与している可能性が検討されることは判例、学説、保険実務において一般に行われていることであり、保険実務に熟達し、これらの見解を知っている被告富田が、原告代理人たる久江弁護士宛てに送った書簡中で、まず前記1のくだりの文章により本件事故資料に基づき事故の態様、程度、事故直後の病院の診断等を掲げ、これに比して原告の治療が延引していることに疑問を提起したうえ、次いで右文章に続いて、そのように治療が長く引くのは被害者の「資質」が寄与しているのではないかとの本件記述をしたものであり、その表現内容にしても被害者の素因が寄与していると断定しているのではなく、あくまで問題の提起にとどまるものである。

4 なお、右書簡中には、本件記述のあとに、久江弁護士の請求してきた通院慰藉料については原告の通院実績を尊重して七〇万円の支払を呈示した記述もされていたのであって、原告も右呈示案に応じて昭和六一年一〇月一六日には、原告と訴外八須間に大略左記のとおりの示談が成立し、左記(三)の示談金七〇万円の支払がされたものである。

(一) 損害合計一九〇万円

内訳(1)治療費八八万〇八二〇円

(2)休業損害及び慰藉料等一一一万九一八〇円

(二) 既受領額一二〇万円(但し、うち一一三万〇八二〇円は被告会社が支払い、残金六万九一八〇円は原告が自賠保険に直接請求して受領した。)

第三  証拠<省略>

理由

一事実関係

1  本件事故の態様と事故直後における原告の受傷についての診断

原告が本件事故により受傷したこと、右原告の受傷が八須の過失により発生したものであることは当事者間に争いがない。

<証拠>によれば次の事実が認められ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。

(一)  本件事故は都内台東区東上野三丁目一九番六号先の昭和通り上野駅前地下鉄入口附近の路上において、下谷方面から秋葉原方向へ進行中の原告運転の普通乗用車(先行車)が折柄の交通渋滞で相当の間徐行のうえ停止したところ、右原告車の後四、五メートルの距離を置いて同方向へ進行していた訴外八須運転の普通乗用車(後行車)が時速一〇キロメートル程度で運行していたが、同乗の女性がケーキの箱を同訴外人膝の上に置いたので下を向いて右ケーキの箱に目をやり、前方注視を怠ったため、先行の原告車が停車したのにブレーキをかけて停止しなかったため原告車に追突したことにより発生した。

(二)  本件事故により原告車の後部バンパーのカバーがわずかに曲り凹損したが、右事故後原告車が運ばれた修理工場では修理日一日以内、五〇〇〇円程度の修理代(リヤバンパーの取替え代)で修理を了した程度のものであった。

(三)  原告は(事故当時六二才、会社員)昭和五九年一二月二八日の本件事故発生直後に(上記日が本件事故発生日であることは争いがない。)訴外医療法人全仁会上野病院(担当医師幕内豊、以下「上野病院」という。)でレントゲン検査を受けた。同病院の診断によれば、原告に意識障害はなく、「頸椎捻挫」で約二週間の加療を要する旨の診断を受け、当日湿布、注射、内服薬投与等の治療を受けて帰宅した。

(四)  原告は本件事故直後、取調べに当った司法警察員(上野警察署)に対して、首が少し痛いので上野病院で診断を受け診断書を警察に提出する旨述べるとともに、治療代その他損害について、誠意をもってかかった分を支払ってもらえば訴外八須に対する処罰は望まない旨の意思を表明していた。

(五)  訴外八須は業務上過失傷害・道路交通法違反被疑事件として東京区検に送致され同区検の取調べをも受けたが、略式手続により昭和六〇年一月二一日罰金二万五〇〇〇円の処罰を受けた。訴外八須は右取調べ検察官に対して、治療代等は同訴外人の保有車にかけている保険金により支払う手続をしており近く原告と示談を成立させたい旨供述していた。

2  昭和六〇年一月七日以後の原告の通院治療の状況

原告が宜保外科医院に通院したことは当事者間に争いがない。

<証拠>によれば次の事実が認められ、これに反する<証拠>は前掲各証拠に照らし信用できず他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(宜保外科医院への通院)

(一) 原告は、前示のとおり、事故当日の昭和五九年一二月二八日に上野病院で診療を受けたのち、年内及び年を越したのちも昭和六〇年一月七日に至るまでは同病院その他の病院にも通院・治療を受けることをしなかったが、昭和六〇年一月七日になって原告の住居の近所(品川区大井五丁目五番二号)に所在する宜保外科医院に通院しはじめ、同年一〇月二日の通院を最後に同医院その他の病院への通院・治療をしなくなった。その間の治療実日数は約一三〇日程度であった

(宜保外科医院の診断書)

(二) 宜保外科医院においては、昭和六〇年一月七日の初診の際、原告の傷病名は「頸椎挫傷兼頸髄損傷の疑」と診断され、原告の症状については、主として原告の愁訴する症状を基礎として、頸の疼痛が強く頸の運動時に痛みを増し頸の屈伸、左右廻転の動作が制限されていること及び右上肢にしびれが感じられている旨の所見が記載された診断書が作成され、後記のとおり被告会社に送付された(その後の診療期間中の診断書も同様に送付された。)。原告には頸椎固定用のギブス(ポリネックス装具)装備の処置がされた。

(三) このようにして原告は本件事故後一〇日経過した頃より宜保医院に通院継続するようになったが、本件事故後も原告保有の前記普通乗用車を従前どおり運転していたところ、昭和六〇年二月二一日には都内世田谷区代田二丁目一八番先路上で原告が加害者として、第三者運転の被害車輛に追突する事故を起したことがあった。原告は同年二月中も宜保外科医院に通院していたが、同医院の同月二八日付けの診断書には原告の傷病名を「頸椎挫傷」と記載され、その症状については「頸部に未だ時々発作的痛みが走ることや頸部に運動障碍があって無理に運動させると痛がる。」といった趣旨の記載がされている。

(四) 宜保外科医院における原告のギブス装備処理は、前記初診時(昭和六〇年一月七日)から同年八月二二日まで続けられ、同日完全に右装備除去の処置がされた。右ギブス装備除去後の九月三〇日付けの宜保医院作成の診断書には、「頸椎の運動時疼痛は緩和した。」との記載があるが「頸に不安感と違和感が残っている。」とも記載され、原告は通院を継続した。しかし、原告の宜保外科医院への通院の実日数は、八月中は一三日、九月中は七日程度のものであり、一〇月中は同月二日に一回通院しただけで、その後は全く通院しなくなった。一一月二一日付けの宜保外科医院作成の診断書には「頸椎の運動時疼痛は緩解した。」が、なお「頸部に不安感が残っている。」としながらも原告が一〇月二日以来約五〇日も通院して来ないし、かつ、連絡もとれないことを掲記して、「症状固定、略状治癒見込みとする。」とも記載されていた。以後、同医院による原告の診療は打ち切られ、同医院の昭和六〇年一一月二一日付けの自動車損害賠償責任保険給付請求のために(但し被告会社による一括内払済み)被告会社に送付された診療報酬明細書には原告の傷病については「治癒」の項に丸印がつけられていた。

3  本件事故の損害賠償についての示談交渉の経緯

原告が本件事故による損害賠償請求について、久江弁護士に依頼したこと、訴外八須が被告会社に久江弁護士との損害賠償についての示談交渉を依頼したこと、被告会社の右示談交渉の担当者には訴外大町、被告富田が順次になり右示談交渉にあたったこと、原告が宜保外科医院に通院し宜保医師の診療を受けたこと、久江弁護士が昭和六一年七月三一日に被告会社宛に「請求書」と題する内容証明郵便を発送して原告の受けた損害賠償額を明示して原告の訴外八須に対する損害賠償請求をしたことは当事者間に争いがない。

<証拠>によれば次の事実が認められ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。

(一)  (自賠責による治療費の支払)

本件事故を起した訴外八須運転の普通乗用車には、同訴外人の父である訴外八須茂夫を保険契約者として、被告会社との間に自家用自動車総合保険契約が締結されており、また、同訴外人と訴外大東京火災海上保険株式会社(以下「大東京保険」という。)との間には自動車損害賠償責任保険契約(以下「自賠責」という。)が締結されていたところ、本件事故は訴外八須の過失により発生したものであったので自賠責からも損害の補填がされうるケースであった。

(二)  本件事故直後、訴外八須から保険金給付による示談交渉につき相談をうけた被告会社(担当千葉東葛自動車損害調査センター)では、まず、被告会社において治療費等の損害につき一括内払をしたうえ、訴外八須茂夫を代理して大東京保険に自賠責の請求をなし右金員を被告会社の立替分に充当する手続方法をとることで、被告会社訴外八須茂夫、大東京保険との間で了解され合い、被告会社は同訴外人より自賠責に基づく保険金の請求に関する委任状をとり、かつ、訴外八須との間で被害者原告との間の示談交渉とその成立及び治療費その他損害金の支払等の事務の委任を受け、これを受託した。右委任事務の被告会社担当者は前記センター勤務の訴外大町が、昭和六〇年一月から三月末まで、次いで昭和六〇年四月以降は右大町の後任者である被告富田がそれぞれこれにあたった。

(三)  前記2(三)に記載の宜保外科医院が作成した昭和六〇年一月から一一月までの各月の診断書は、いずれも同医院が自賠責から治療費の支払を受けるために、右診療期間中の各月毎に「治療報酬請求明細書」が作成され、右請求書に添付されて被告会社に送付されてきたものであるところ、右送付を受けた被告会社では各月毎の請求金額を直接宜保外科医院の銀行口座(協和銀行大井町支店)に振込み支払われた。このようにして被告会社は、訴外大町担当期間中の昭和六〇年二月から一二月までの間に上野病院及び宜保外科医院から診断書添付のもとに送付されてきた「治療報酬請求明細書」に基づき、合計八八万〇八二〇円(上記金額のうち、上野病院に二万〇三二〇円、宜保外科医院に残額)を支払い、後に被告会社が訴外八須茂夫を代理して大東京保険に対して自賠責の請求をなして、右内払金の回収をはかった。

(四)  (原告から損害賠償の催告)

他方、原告は、昭和六〇年一月初旬、自賠責給付のために必要な書類を備えて、大東京保険(千葉サービスセンター)に被害者請求をなしたが、大東京保険は従前の申し合わせどおり被告会社において一括内払をするよう依頼し、右原告送付の書類一切を被告会社に送付してきた。右送付されてきた原告からの昭和六〇年一〇月一日付けの請求書には、(1)診療費については請求しないが(2) 休業補償費については一日当り三七〇〇円、(3) 慰藉料については一日当り三四〇〇円、(4) 通院交通費については三万九六〇〇円(明細書添付)、それぞれ請求する旨の原告の損害発生並びに治療費以外の訴外八須の負担すべき責任についての主張が記載されていた。

(五)  (被告会社の原告に対する返答)

被告会社担当者の訴外大町は、昭和六〇年一二月二八日付け原告宛ての書簡を送付した。右書簡ではまず原告に対して本件事故の件で原告に多大の迷惑をかけた点を詫びる挨拶文を記述したうえ、治療費については宜保外科医院より一一月二一日付けで最後の治療費の請求があり一二月上旬には支払を了したこと、原告の治療費としては既に八八万〇八二〇円が支払われたこと、原告から大東京保険宛てに送付された被害者請求とその一切の書類については、任意自賠責各保険の一括処理にあたっている被告会社に回送されてきていること、ついては示談に向けての打ち合わせをしたいので被告会社宛てに連絡してほしい旨の申し入れがされた。

(六)  (損害の一部弁済)

そして、被告会社では、前記治療費の外に自賠費で支払いのできる範囲(一二〇万円)内で昭和六一年一月末頃に一〇万円、二月末頃に一五万円を、いずれも原告の銀行口座(第一勧業銀行五反田支店)に振込み送金して内払いをした。訴外大東京保険はその頃、原告に対して保険給付請求に関する事務が被告会社で一括取扱いとなった旨電話で連絡した。

なお、原告はその後自賠責残額六万九一八〇円を被害者請求に基づく保険給付として大東京保険より支払われた。

(七)  ところが原告は、昭和六一年三月二四日付けの書留郵便により被害者請求人原告より大東京保険宛ての「自動車損害賠償責任保険金支払催告書」と題する書面を作成送付した。同書面は、昭和六〇年一〇月一日に被害者請求を大東京保険宛てにしたところ、被告会社経由で昭和六一年一月三一日に一〇万円、二月二七日に一五万円の計二五万円の送金を受けたのみで、その後何の連絡もせず、また右送金の性質、明細も明らかにされていないが、原告は損害の内払を求めたのではなく本件事故により生じた全損害の残金の支払を請求しているのであるから、至急残額を支払ってほしいとの趣旨の強い意向を示した内容のものであった。

(八)  (原告代理人久江弁護士及び宮瀬弁護士の被告会社宛ての「請求書」)

その後原告は原告本人が直接保険会社と交渉してもらちがあかないと考え、久江弁護士及び宮瀬洋一弁護士に相談し、右両弁護士が連名で原告の主張に基づく損害賠償の「請求書」を作成し、被告会社に内容証明郵便により送付した。右「請求書」は八月初旬頃被告会社(千葉東葛自動車損害調査センター)に送達されたが、右書面は、久江弁護士及び宮瀬弁護士が原告の代理人として本件事故に関し原告の受けた損害を請求するというもので、仮に争訟事件に発展すればその内容は直ちにそのまま訴状に使用できるほどの法律専門家によるこの種事件の定型的な損害費用と金額を明記し右請求金額を至急支払われたい旨の意思表明した文面であった。右久江弁護士の本件事故に関する損害についての記載内容は大略左記のとおりである。

請求金額 金四二九万三四四八円

(1) 損害額 五四九万三四四八円

(ⅰ) 治療費 八八万〇八二〇円

(ⅱ) 通院交通費 三万九六〇〇円

(ⅲ) 通院慰謝料 一五〇万円(通院期間昭和五九年一二月二八日から同六〇年九月三〇日まで二七七日、うち実通院日数一三一日、及びその後の通院一日の計一三二日)

(ⅳ) 休業補償金 一〇七万三〇二八円(六二才、平均給与、二五万二〇〇〇円、日割金額の一三二日分)

(ⅴ) 後遺症慰藉料 二〇〇万円(頸椎挫傷兼頸髄損傷による傷害は現在でも完治していないことによる。)

(2) 既支払額 一二〇万円

(ⅰ) 治療費 八八万〇八二〇円

(ⅱ) 昭和六一年一月三一日 被告会社から入金一〇万円

(ⅲ) 同年二月二七日 被告会社から入金一五万円

(ⅳ) 同年六月二六日 大東京保険から入金六万九一八〇円

(3) 請求金額 右(1)から(2)を控除した残額四二九万三四四八円

(九)  (被告富田の久江弁護士宛ての本件記述を含む書簡)

右久江弁護士及び宮瀬弁護士連名の「請求書」を受け取った被告会社では、社内決裁のうえ、昭和六一年四月以来訴外大町の後任者となった被告富田が、訴外八須の代理人として、同年九月二日付けの久江弁護士宛てに書簡を作成・送付した。この書簡中に本件記述の文章部分があるところ、右書簡の文脈と本件記述の位置等他の文章の表現内容は、およそ次のとおりのものであった。

右書簡には、まず、冒頭部分で、これまでに原告に対する損害金として、治療費八八万〇八二〇円及びその他三一万九一八〇円が支払済みとなっていること、右支払われた金員は合計一二〇万円の範囲で自賠責により損害金の一部弁済とされたものであることが説明されたうえ、次いで、添付された修理明細書及び修理前の原告保有車の修理前の写真を引用して、「車の損傷はリヤバンパーに限定され、修理は、その交換のみで済んでおり、工場は一月一四日に受入れ、同日引渡していることから見ても修理は極めて簡単であったことは読みとれると思います。当方が入手している写真でも衝撃吸収バンパーのカバーにわずかにすり傷が見られる程度で、衝突時の加害者の車輛のスピードは四Km/h以下と推測されます。このような衝撃では、一般に頸椎捻挫は生じないが、起ったとしても、一過性のものとされており、現に和賀様が最初に診断を受けた上野病院では約二週間の加療を要すると診断されております。」とのくだりの文章があり、右文章に次いで本件記述即ち、「本件治療がこれほど延引したことは純粋な事故起因の他に本人の資質等も加味されているのではないかと思われます。」(以上記述については争いがない。)が続いて書かれている。そして、右記述の次には、「何れにせよ衝撃の程度、被害者の職業が少なくとも肉体労働とは思われないことから、この間の治療を是認するとしても、それが為に、労働収入に大きく響いたとは思われませんので、本件休業損害等については前記の三一万九一八〇円の範囲で補償されているものと判断します。」との記載があり、またこれに次いで「後遺障害については、その存在の立証がなされていないことから、否認させて頂きます。傷害慰藉料につきましては一応通院実績を尊重させて頂くと共に本件円満な解決のため損保基準を採用の上、七〇万円を呈示致します。」との記載がありこれから後段の文章により休業損害の否認、後遺障害について認める限度額(既払分の三一万九一八〇円)、傷害慰藉料につき七〇万円を支払う用意がある旨の答弁と示談による支払追加金額の訴外八須側の主張による案を呈示したものであった。

(一〇)  (示談の成立)

原告代理人久江弁護士は、前記(八)の被告富田から同弁護士宛ての書簡を受け取り、原告の承諾のもとに被告富田と交渉して、昭和六一年一〇月一六日には左記のとおり右被告富田の書簡中で提案された更に金額七〇万円を支払うことで示談が成立し右七〇万円はその頃、被告会社から原告の前記銀行口座に支払われた。

(1) 損害合計金 一九〇万円

(内訳)

(ⅰ) 治療費 八八万〇八二〇円

(ⅱ) 休業損害及び慰藉料 一一一万九一八〇円

(2) 既払合計金 一二〇万円(但し、うち、一一三万〇八二〇円は被告会社支払済み。残金六万九一八〇円は原告が自賠責に直接請求し大東京保険より受領済み)

(3) 示談金 (1)から(2)を控除した残額七〇万円

二被告富田の不法行為責任の有無

以上のとおり、前記一の事実が認められるところ、右事実関係のもとにおいて、被告富田のした本件記述と右記述部分を含む原告代理人久江弁護士宛ての書簡の送付の所為が名誉毀損行為として損害賠償責任、更には原状回復責任を負うべき不法行為が成立するかについて以下において判断する。

1 ところで、特定事故による損害の発生、責任をめぐり被害者と加害者間に紛争が生じ、右両当事者の委任した代理人が試みた示談交渉の過程において双方の主張のやりとりにより、争点が明確になり、その対立が浮彫りにされ、もし示談成立をみなければ、右紛争はそのまま民事訴訟に持ち込まれ争訟の目的物となるであろうと予想される状況のもとにおいては、民事訴訟の前段階であるにせよ、右被害者の代理人が自己の依頼者の権利実現のために相手方加害者の責任を追求する攻撃的な主張、意見を述べることや、加害者の代理人が自己の依頼者のためできるだけ責任を軽減させ過大な権利要求から逸れるべく相手方代理人の主張に対する認否、反論等の主張、意見表明による防禦反撃の所為にでることもその表現の内容、方法、態様等が社会的に許容されないほど著るしく反社会性を帯びるものと認められない限り、たとえ該主張、意見表明により相手方の主観的な名誉感情が害されることがあっても、依頼者個人の権利・義務を守るために容認されるものと解するを相当とする。

そしてまた右の主張、意見が特定の者に送付された書簡中の一部の記述である場合には、右記述中で主張、意見の対象とされた人物の名誉が毀損され該記述の所為が不法行為を構成するかの判断にあたっても前記の社会的に許容しえないほど反社会性を帯びないものであれば、容認されるはずであり、また、その特定の記述部分の表現が違法性を帯び、右記述者の記述、送付の所為が不法行為を構成するかの判断にあたっては、当該記述部分だけを抽出してその中の特定用語の意味等を吟味するにとどまらず、右書簡自体の性質、目的、受取人、その他右記述作成・送付の経緯、右記述部分とその前後の文脈、書簡中のその余の文章、各文段のつながりと文章全体の中における当該記述の意味、表現内容、態様等も広く対照して合わせ検討されるべきこともいうまでもない。

これらの観点から被告富田のした本件記述とその部分を含む書簡の送付について検討する。

2 前記一3(一)ないし(一〇)において認定した各事実によれば、被告富田のした本件記述及び右記述部分を含む書簡を久江弁護士宛てに作成・送付した経緯、目的は前記二1掲記の如くであって、被害者である原告の支払催告が先行したうえ更に右原告の委任した法律専門家である久江弁護士からの内容証明によるその形式・内容上も争訟事件に移行すれば訴状の請求の趣旨(損害賠償請求残額合計四二九万三四四八円)及び請求原因中の損害(各損害項目の内訳けと理由も付されている。)と責任の主張の項に適応できるような文書「請求書」が送付されてきたことに対応して、しかも原告にかかった治療費の全額八八万〇八二〇円とその他三一万九一八〇円の合計金一二〇万円の損害賠償が自賠責から支払済みとなっている段階で、右請求書による被害者原告側の権利主張に対して、同訴外人より委任を受けた代理人の被告会社社員富田が同訴外人のために、いわば争訟事件に移れば答弁書に対応するような内容をしたため、更に訴外八須側で容認できる損害額と残金七〇万円を示談金として支払う旨の意向を示して示談案の呈示をも併記した書簡を作成し同弁護士宛てに送付したものであり、また、右双方代理人のその後の示談交渉により右富田が書簡中で呈示した示談案どおりの金額で双方間に示談が成立したのである。

そうすると、本件記述を含む書簡中における加害者訴外八須側の主張、意見については、久江弁護士作成の「請求書」中における被害者原告側の主張、請求とともに、いわば訴訟直前の双方の争点についての主張、意見の表明行為として、その権利、義務を守るために自由活発にされてよいはずであり、ただその表現内容等が著るしく反社会性を帯びるものと認められない限り不法行為を構成することはないというべきである。

3 前示一3(九)によれば、原告が名誉毀損されたとする本件記述は、原告の治療が延引したのは本件事故自体に起因するほか「原告の『資質』が加味されたものではないかと思われる」旨の記述部分である。

なるほど「資質」なる用語の意味は甲第七号証その他の国語辞典等によれば、一般には人の「性質」を意味するものと理解されているが、<証拠>によれば、本件記述部分に先立つ文章及びその後に続く文章の連がり更には本件書簡の文章全体の趣旨内容は、前記一3(九)に詳述したとおりであって、右書簡には、まず冒頭部分で既に治療費その他合計一二〇万円が自賠責により損害金の一部弁済されたことが説明されたうえ、次いで、添付された原告保有車の修理明細書及び原告保有車の修理前の写真を引用して車の損傷が軽微であること、右損傷の程度から衝突時の加害車のスピードを推測し、その衝撃の程度では原告の受傷の程度も頸部捻挫が生じないか、生じても一過性のものではないかとの疑問を投げかけたくだりの文章がありそこには上野病院の診断書の記載内容を引用して述べてもいるのである。これらの文章に続いて本件記述があり、右記述の後には更に原告側主張の各損害項目のうち、休業損害は既払の三一万九一八〇円の限度で認め、後遺症損害については主張、立証がされていないとして否認し、傷病慰藉料としては原告の通院日数を尊重して七〇万円を認め支払う旨述べかつ右七〇万円の支払により合計一九〇万円の損害賠償義務を認めることにより示談案として呈示する意向を示した記述がされている。そして、本件記述部分の表現態度は被告富田の意見を述べているが、その表現自体は決して断定したものではなく、また前記のとおり資料を引用しながら疑問を投げかけたうえで述べられていることが窺えるのである。

3  ところで、頸椎捻挫(むち打ち損傷)は軽度の場合比較的早期(二、三か月以内)に治癒するが、その症状は事故直後の早期レントゲン検査等により他覚的に分かる場合以外は往々その症状を他覚的にとらえることは難しい場合があり、治療対象者の訴える苦痛その他こり、しびれ等の症状により治癒の過程、結果が判断されることが多いのであって、その際直接事故に起因する要素のほか患者の性、年令、体質、気質等の個人差によりその心因的要素の寄与の度合が大きかったり小さかったりすることも通常専門医により知られているところであり、また裁判例の中にもそのような認定をしているケースが多々あることは公知の事実である。また、損害保険実務においても各保険会社や保険協会等により担当者向けのマニュアル等で教育、周知をはかっている(成立に争いのない乙第九号証の一ないし五、同号証の七、乙第一〇号証の一ないし四)し、また高度の医学知識や法律知識のない一般人にしても新聞の記事、雑誌の専門医の論稿等により容易に理解できうる事柄である。もっとも、原告の宜保外科医院への通院と同医院の診断書に記載された傷病名や症状については前記一2において認定したとおりであるが、前示のとおり同医院作成の右各診断書はすべて治療報酬請求明細書に添付されて被告会社に毎月送付されこれにより被告会社から同医院に請求に係る治療報酬全額を支払われたものであって、もとより被告会社の担当者である被告富田としてはこれら各診断書の記載内容を読み知っていたところ、各診断書(甲第六号証の一七ないし三八)中に記載されている原告の症状をみると、主として原告の自覚症状により訴える頸部疼痛、上肢しびれ、不安感などといった症状を基礎としたものであり、「他覚的」な運動障碍があると記述している個所においても、その内容は「頸椎を後にそらすことが抵抗を感じ無理してそらすと痛がる」といった程度の、やはり患者本人の自覚症状をそのまま記述していることが窺える。そして被告富田は当初上野病院では二週間の加療を要するものと診断されたのに宜保外科医院には約一〇か月も通院治療を継続した経緯を十分知っており、これらの経緯をも踏まえたうえで、「このように治療が延引した」のには純粋事故起因のほか「本人資質も加味されているのではないか」「と思われます」と述べているのであって、この記述により被告富田が久江弁護士に伝えようとした意思は、前示の経緯と書簡全体の文面及び被告富田本人の供述によれば、原告の症状が事故と直接関係のある物理的・器質的要因に起因するほか被害者自身の体質、気質といった生来の要素たる心因的要因が寄与しているのではないか、との疑問、意見を述べることにあったのであり、右記述中の「本人資質」もそのような事故と直接関係のない心因的要因の範疇に含まれると理解して用いたものと推認することができるし、また本件記述が裁判上の証拠調べ等がなされた段階で証拠資料に基づいてなされたものではないが、損害保険実務についている被告富田がこの種事件の裁判例やその他保険実務上必要な専門医学者の論稿、マニュアル等一応の資料によって得た知識に甚づいて述べたというのであり、右記述部分全般の表現にしても原告が仮病を使ったという事実を端的に指摘したり、原告が病気を大袈裟にいう性格であると断定的に言っているのではないことは文面上明らかに読みとれるのである(仮に専門的知識の十分でない原告がそのように理解せず、右記述が仮病を使っているとか、病気を大袈裟にいって保険金を詐取しようとしたような悪質な性格であると言っているとの意味にとり、一時的にせよ感情を害したことはあったにしても、前示のとおり書簡の名宛人・受取人が法律専門家の久江弁護士であることからすれば、同弁護士が原告以外の者には見せないであろうし、右文面を原告本人に見せた場合には、その書簡全体の内容については同弁護士により依頼者たる原告に右内容の意味を理解できるように説明されたであろうことは、後日原告の承諾のもとに同弁護士が被告会社と交渉のうえ右被告富田の書簡中に呈示された被告会社案に沿った示談が成立したことからも、容易に推認できるのである。)。

以上に検討したところを前記二1の観点から総合して考えると、被告富田の本件記述とその送付行為は、原告の名誉を毀損し不法行為を構成するほどの違法性を帯びるものとは認めるに足りない。

三結語

よって、原告の本訴請求はいずれもその余の点を判断するまでもなく理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官伊藤瑩子)

別紙謝罪広告<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例